この紅葉賀は、源氏物語前半の重要な物語になりますが、香りに関する記述はほぼありません。緻密な情景描写、複雑に錯綜する心情を描き出して、多彩な伏線を張り巡らす辺り源氏物語の前半のクライマックスのひとつという趣です。いよいよ藤壺の子がお生まれになり、それが源氏とあまりに良く似てるため藤壺は思い悩むという物語。
この帖は二部構成になっていて、前半は前述の通り藤壺と源氏のエピソードに、色を添えるかのように実の姪に当たる若紫のエピソードが挿入されて複雑でスリリングな構成になっています。
物語は、十月に繰り広げられる歌舞の演奏の試楽(リハーサル)を宮中で行うところから始まります。そこで源氏は青海波を舞い、続いて頭中将が舞いを行う事になります。これは式典に参加できない藤壺を思って帝が宮中でのリハーサルを計画したもので、式典の主役でもある源氏の舞いの見事さと、複雑な藤壺の心境が詳細に描かれます。
もの思ふに立ち舞ふべくもあらぬ身の
袖うち振りし心知りきや
てしまって、しかも全然美人でもなければセンスもピント外れな、今風に言うと少し残念な姫君との逢瀬の物語になります。
これは源氏が藤壺に送った歌になりますが、源氏を避けようとする藤壺も思わず返事を送ります。
重々しいというか、源氏物語のシリアスな一面がこの嬢の前半の記述ですが、後半は頭中将と源氏のふざけ合いというか、珍しく閑話休題的な展開です。ただし、物語としてはあまり笑うに笑えない話になってしまいます。