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堺線香について

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猪名のささ原 風吹けば~源氏物語の香りを探る~ 4章 若紫の帖

 光源氏が瘧病(熱病)に罹り、北山の修験僧の元に向かうところから「若紫」は始まります。若紫といえば、紫の上登場の名場面なので、多くの人が知ってるだろうと思います。時期的には街中の桜が終わってもまだ北山の桜は残っている春先の時期になります。
「そらだきもの、いと心にくく薫り出で、名香の香など匂ひみちたるに・・・」
北山での加持祈祷の折に泊った山荘でのくだりで、薫物の逸話が登場しますが、ここでは紫の上を育ててきた祖母の尼僧の高貴で厳格な性格を象徴するような描き方です。良い香りの名香という表現になりますが、高貴な身分を連想させると同時に北山の寺院の厳格さを感じさせる、静かな山寺の上品なお焼香の香りというところでしょうか。

 さて、源氏の「永遠の恋人」である藤壺の姪であり、そっくりな容姿でもある紫の上。幼い紫の上を何とか自分の身近に置いて(自分の理想に)育てたいと企む源氏ですが、そんな源氏の思惑なんて仏門に入った祖母に伝わる訳もなく、色々と策略を練るというお話の流れになります。そんな展開の途中で重要なエピソードが加わります。それが藤壺との重要なエピソード。一体源氏は何がしたかったのかと呆れつつも、物語としては、藤壺と紫の上との関係を推し量る上でも、今後の物語の展開にも重要なエピソードになります。藤壺が病気になり、宮中から自邸に戻った頃、源氏は早速会いに行く訳ですが、この話は後ほどにした方が良いでしょう。

秋の京都北山「源光庵」

 紫の上が祖母に連れられて都に戻ってきた折、早速源氏も出向きますが、一向に紫の上を引き取るまでは行かず、時間が過ぎて祖母も他界されてしまいます。そして紫の上が一人残されたのですが、こうなると源氏は非常に活動的になり物語も一気に進みます。

『朝ぼらけ霧立つ空のまよひにも 行き過ぎがたき妹が門かな』

若紫の章でも有名な和歌になりますが、紫の上のいる屋敷でもなく藤壺の屋敷でもなく、恐らく別の女性宅の屋敷の門の前で明け方頃に歌っています。源氏の頭の中は紫の上の事で埋め尽くされてるはずですが、そのぼんやりとした心情が歌に表れているようにも感じます。

 『近う呼び寄せたてまつりたまへるに、かの御移り香の、いみじう艶に染みかへらせたまへれば、「をかしの御匂ひや。御衣はいと萎えて」と、心苦しげに思いたり。』

紫の上といえば、源氏物語の中でも最重要といえる登場人物の一人として数えられますが、この紫の上の着物に残された現時の移り香と、それに気づく実父である兵部卿宮(藤壺の兄)の心情というべきか、ここでも源氏の放つ香りが物語の重要な伏線になっていると言えそうです。



2019.5.29掲載