夕顔といえば、光源氏の永遠の恋人とでも言うべきでしょうか。源氏物語の登場人物としても、特に良く知られた一人です。
実は、夕顔の物語は結構複雑な構成で、まずは源氏と夕顔の出会いのシーン。実は最初に香りに因んだ逸話が登場しますが、その後は良く皆さんご存知の通り、深夜に幽霊に遭遇して、明け方になって恋人の夕顔が息を引き取ってしまいます。そして源氏もショックで寝込んでしまい、そこにライバル(というか・・・)である頭中将が源氏のお見舞いに訪れます。源氏にとっては、微妙なタイミングで一番微妙な立場の友人がお見舞いに訪れてくれた訳でしたが、そこで夕顔の忘れ形見の幼い子の話を聞きます。この話はまだ先の事になりますが、源氏物語の中で「夕顔」が特に重要人物の一人として描かれている事を印象付けるエピソードと言えるかも知れません。
夕顔中心の物語かと思ったら、不意に空蝉からの便りが届き、和歌のやりとりが続きます。実は空蝉に関わるエピソードを思い出しながら、改めて夕顔について回想するという少し凝った構成になります。夕顔と空蝉を交互に描き分ける事で、強く印象付けると共に、実は源氏物語の骨幹になる重要人物のキャラクターとして故意に二人を交錯させているような印象すら感じます。
そして、夏が過ぎて夕顔の四十九日の法要に入り、そこで幽霊の正体がおぼろげに描かれます。この夕顔の章の最後は、空蝉が夫である伊予介に連れられて伊予国に下るシーンで終わりとなりますが、今時風に解釈するなら全編伏線に富んだ興味深い構成になっているように思います。